エドワード・T・ホール(1966))『沈黙の言葉』 南雲堂
 「何百億ドルにものぼる金額を対外援助に投じているにもかかわらず、アメリカは世界の愛情はおろか尊敬も勝ち得ていない。多くの国々において、アメリカ人は表面上はともかく、その実は嫌われている。・・中略・・・異なる文化間のコミュニケーションにまつわる困難がありのままに認識されていることはほとんどない。国を異なる人々の間で意志が疎通していないことが明白になるととかくお互いに「物分りの悪い外人」のせいにしては外国人というのはおろかで不正直で間の抜けた連中であるといいがちである。・・・・(本書序文より)」
おすすめポイント☆
 40年の時を超えてなお文化人類学の名著といわれる1冊である。「時」「型」「個といった独自の切り口で、文化とは何か、言語、非言語を含めたコミュニケーションの本質を明らかにしようとしている。全体的にやや難解な文章構成で、学部1年生には読みこなすのに忍耐の必要な部分もあるが、挑戦してみる価値のある本だろう。


土居建郎(1971)『甘えの構造』 弘文堂
「日本における「甘え」の慣習はかくして生まれたものであるが、このことは日本の社会に独特の魅力と凝集力を与えているといえるだろう。しかし、それだけではすまないことが問題である。前からよく言われていることであるが、日本人は集団生活を好み、自己の帰属する集団と容易に一体化するという・・・(本書前書きより)」
おすすめポイント☆ 
 「甘え」というユニークな視点で日本人論を展開し、一躍話題になり英語版はもちろん、韓国語、イタリア語ドイツ語などの翻訳本も出版された本である。内容は読みやすい。「甘え」が日本的であるのかどうかは、議論がわかれ、本書は、増補を繰り返しながら新たな議論を提供し続けている。


*直塚玲子(1980)『欧米人が沈黙するとき』大修館書店
 「しかし、日本人はどんな場合にも「沈黙は金」を守り続けているだろうか。一方、欧米人はどんな場合にも「雄弁は金」とばかりにしゃべりまくっているのだろうか。答えはノーである。(本書第1部欧米人が沈黙するとき-日本人はなぜ口数が多いのか-より」」
おすすめポイント☆
 日常の挨拶から謝罪の表現、質問の仕方や議論の方法など、筆者の経験知としっかりとした分析力でその違いを論じた良書である。日本人は寡黙、欧米人はおしゃべりというおおざっぱなステレオタイプに詳細な事例分析で対抗する。欧米圏への留学を目指す若者にも参考になる1冊である。


*ハル・ヤマダ(2003)『喋るアメリカ人黙る日本人』成甲書房
「異文化間コミュニケーションの誤解はそもそも自己認識のずれから生じることが多い。日本語を話すのはボクらだけという占有意識も、誰もが英語を話すべきだという伝道的姿勢も比較されてはじめてわかる盲点である。」(本文前書きより)
おすすめポイント☆
 ビジネス場面のコミュニケーショントラブルが中心にとりあげられており、その場面描写が詳細で非常におもしろい。しかし、本書がいう異文化間コミュニケーションの大局を捉えるというには各論に分散しすぎている感がある。読み手なりに内容をまとめ、反論しながら読み進めてほしい。


彭 飛(2006)『日本人と中国人とのコミュニケーション』和泉書房
 「日本語の易しさ、難しさ、豊かさ、そして身勝手さも、日常生活の体験を通して数多く発見した。しかし、ことばや習慣の違いから来る誤解や摩擦に苦労させられたことも少なくない。この本に書き綴った身近な例を通して、なぜ五階が生まれるのか、そのメカニズムの解明に踏み込み・・・」(本書帯より)
おすすめポイント☆
 京都外国語大学の教授であり、日本語の「配慮表現」についての研究者が書いたエッセイ。雑多なトピックスではあるが、やさしく、読みやすい。、また専門家ならではの分析も見られ、興味深い。中国人留学生にも先輩の失敗談はよい参考になるし、言語学に興味のある学生も一読の価値があるだろう。


*大島希巳江(2006)『日本の笑いと世界のユーモア』世界思想社
 「日本人は何をどのように笑うのか。それについて述べる前に、日本では冗談を言い合って笑いあえる関係にすでにあることが、前提として重要である。何も関係ももたないどうしが突然冗談を言って笑い合うという状況は極めて珍しい。しかし、多民族社会においては・・・・」(本文第3章日本の笑いから)
おすすめポイント☆
 「笑い」を研究にした新進気鋭の研究者による力作である。異文化間コミュニケーションの様々な理論を的確に押さえながら、日本の笑いと、世界の笑いを分析する。非常にユニークで、独創的、刺激的な1冊である。1年生諸君には1冊すべてを取り扱うのはヘビーなので、どこか興味の持てる章を選んで論述することをお勧めする。


今後も以下の本を紹介していきます*******

*『タイ人と働く』
*『謝らないアメリカ人すぐ謝る日本人』
*『かくれた次元』
*『空気の研究』
*『日本人とユダヤ人』
*『縮み思考の日本人』
 

 



The mind and the words
批判的書評のためにおすすめする異文化コミュニケーションに関する本